毎月1万円の持ち出しを給与から無理なく補填できるとしても、その物件が投資として妥当とは限りません。
不動産投資では「負担できる金額か」と「投資として収支が成り立つか」を分けて考えることが必要です。持ち出しの原因に加え、空室や修繕、金利の変化、ローン残債、将来の売却まで確認して初めて、投資全体の収支が見えてきます。
この記事では、医師が毎月1万円の持ち出しを提示された場合に、どの数字を見て判断すればよいのか整理します。
1.毎月1万円の持ち出しだけでは「問題ない」と判断できない
不動産投資では、家賃収入だけでローン返済や管理費などの支出を賄えず、不足分を自己資金から補う状態を「持ち出し」と呼ぶことがあります。
たとえば、家賃収入が月9万円、ローン返済や管理費などの支出が月10万円なら、単純な月次収支はマイナス1万円です。年間では12万円を自分の資金から補うことになります。
医師であれば、給与や事業所得から月1万円を補填すること自体は難しくないケースもあるでしょう。しかし、「払える金額かどうか」と「その物件が投資として合理的かどうか」は別の問題です。
現在は月1万円の持ち出しでも、空室が発生すれば家賃収入は減ります。設備交換などの修繕費がかかったり、借入条件によっては金利の変化が返済負担に影響したりすることもあります。現在の収支が将来も続くとは限りません。
一方、月次のキャッシュフローがマイナスだからといって、その時点だけで投資全体が失敗したとも断定できません。ローン返済には元本返済が含まれており、返済が進めばローン残債は減っていくためです。
毎月1万円の持ち出しを判断するときは、少なくとも次の3点を確認します。
- 何が原因で持ち出しが発生しているのか
- 空室や修繕などを加えても資金繰りが成り立つか
- ローン残債と将来の売却まで含めても投資として合理性があるか
「1万円なら許容できるか」ではなく、その1万円が生じている理由と、今後の収支まで含めて考えることが出発点です。
2.不動産投資の「赤字」は税務上の赤字とキャッシュフローに分けて考える
不動産投資では、「赤字」という言葉が異なる意味で使われます。特に区別したいのが、税務上の赤字と、実際のお金の出入りを示すキャッシュフローのマイナスです。
税務上の赤字と実際の持ち出しは同じではない
不動産所得は、家賃などの総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。必要経費には、固定資産税、損害保険料、減価償却費、通常の維持管理や修理にかかる修繕費などがあります。
ここでポイントになるのが減価償却費です。減価償却費は、建物などの取得価額を使用可能期間にわたって費用として配分する仕組みです。その年に計上した減価償却費と同じ金額が、その年に銀行口座から出ていくわけではありません。
そのため、税務上は不動産所得が赤字でも、実際のキャッシュフローは黒字というケースがあります。反対に、税務上は黒字でも、ローン元本の返済などを含めると手元資金が減っている場合もあります。
両者の違いは、次のように整理できます。
| 見る数字 | 主に確認するもの | 現金収支との違い |
| 税務上の不動産所得 | 収入-必要経費 | 減価償却費など、当年に同額の現金支出を伴わない費用も含む |
| キャッシュフロー | 実際の入金-実際の出金 | ローン元本返済など、税務上の必要経費にならない現金流出も含む |
参照:
・国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」「確定申告書等作成コーナー「借入金利子」」
「不動産所得が赤字だから問題」「赤字だから節税できて得」と単純化せず、税務上の損益と実際の現金収支を分けて見る必要があります。
ローン返済は「元本」と「利息」に分けて見る
毎月のローン返済額も、ひとまとめにして考えると収支の実態が見えにくくなります。ローン返済は主に元本返済と利息に分かれます。
賃貸用物件の取得に使った借入金の利息は、一定の範囲で不動産所得の必要経費となりますが、元本返済は必要経費にはなりません。
元本返済は税務上の経費ではありませんが、実際には口座から出ていくため、キャッシュフローには影響します。同時に、元本を返済した分だけローン残債は減っていきます。
もっとも「元本返済は貯金と同じだから、毎月赤字でも問題ない」と捉えるのは適切ではありません。残債が減っても、将来の売却価格がそれ以上に下がれば、資産全体で有利になっているとは限らないためです。
ローン返済の元本と利息の内訳は、金融機関の返済予定表などで確認できます。月々の返済額だけでなく、その中身まで把握すると、持ち出しが生じている理由を整理しやすくなります。
3.毎月1万円の持ち出しを判断する5つのポイント
収支表に毎月1万円の持ち出しが記載されていた場合、どこを確認すればよいのでしょうか。少なくとも次の5点を見ておきたいところです。
① 収支表に何の費用が入っているか確認する
最初に見るべきなのは「月1万円」という結果より、その計算に何が含まれているかです。
不動産投資では、家賃収入に対して、ローン返済のほかにも管理費、修繕積立金、管理委託費、固定資産税等、保険料などの支出があります。設備の故障や入退去に伴って、別途費用が発生することもあります。
たとえば、毎月の管理費とローン返済のみで「持ち出し1万円」と試算されているケースでは、年単位でかかる税金や保険料が含まれていなければ、実際の年間収支は提示された数字より悪化します。
不動産会社からシミュレーションを提示されたら、「毎月いくら赤字か」だけでなく、どの収入と支出を計算に入れているのか確認が必要です。
② 空室や家賃下落が起きても収支が成り立つか確認する
収支シミュレーションが、常に入居者がいて、現在と同じ家賃を受け取れる前提になっていないかも見ておきます。
賃貸物件では、退去から次の入居まで家賃収入が途切れることがあります。周辺の賃貸需要や築年数などによっては、募集条件や家賃を見直す場面も出てきます。
通常月の持ち出しが1万円でも、空室中は家賃収入そのものが入らない可能性があります。年間12万円の持ち出しだけを見込んでいたところに空室期間が加われば、年間キャッシュフローは大きく変わります。
将来の空室期間や家賃を正確に予測することはできません。そのため、「現在の家賃が続く」という一つの前提だけでなく、家賃が下がった場合や一定期間空室になった場合も試算しておくと、収支の余裕度を判断しやすくなります。
③ 修繕費など突発的な支出も含めて考える
月次のシミュレーションでは見えにくいのが、毎月は発生しない支出です。
室内設備が故障した場合の交換費用や、入退去に伴う原状回復費などが発生すれば、その年のキャッシュフローに影響します。区分マンションで修繕積立金を支払っていても、専有部分の設備交換など、所有者が別途負担する費用までなくなるわけではありません。
したがって、「毎月1万円なら年間12万円」とだけ計算するのではなく、まとまった支出が発生しても資金繰りに無理がないかを見ておく必要があります。
平均的な修繕費だけで判断するより、検討している物件の築年数や設備、過去の修繕状況などを確認する方が、その物件に即した判断につながります。
④ 金利が変化した場合の返済負担も確認する
ローンを利用する場合は、現在の返済額に加えて、契約している金利タイプや返済条件も確認します。
特に変動金利型では、将来の適用金利が現在と同じとは限りません。金利が変化したときに返済負担がどう動くかは、契約内容や返済方式によって異なります。
ここで必要なのは、「一般的な投資ローンの金利は何%か」を知ることではありません。自分が提示されている借入条件で、収支がどこまで変化するかを把握することです。
現在は月1万円の持ち出しでも、金利が上昇したケースで再計算すれば、キャッシュフローにどの程度の余裕があるのかを確認できます。
⑤ 「医師の収入なら払える」と投資採算性を分けて考える
不動産会社から「医師なら給与で補填できる範囲です」などと説明された場合でも、負担できること自体は、その物件を購入する根拠にはなりません。
確かに、月1万円程度であれば家計への影響が小さいケースもあります。しかし、少額に見える持ち出しも、長期間続けば累積額は大きくなります。さらに空室、修繕、家賃や金利の変化が加われば、当初の想定より負担が増える可能性があります。
見るべきなのは医師としての支払能力ではなく、その持ち出しに見合う資産形成が期待できる条件になっているかです。
「給与で補填できるから大丈夫」ではなく、なぜ赤字なのか、どこまで悪化する可能性があるのか、最終的にどの程度の資産が残る想定なのかまで確認して判断します。
医師専門の節税アシスタントが
あなたをマンツーマンでサポートします!!
4.節税できても毎月の持ち出しが問題なくなるとは限らない
前述のとおり、税務上の赤字と実際のキャッシュフローは別です。そのうえで、節税効果を期待できる場合でも、「節税できるから持ち出しがあっても問題ない」とは判断できません。
不動産所得で損失が生じた場合、一定の条件を満たせば他の黒字所得と損益通算できる場合があります。給与所得のある医師では、その結果として所得税などの負担が変わるケースがあります。
一方、不動産所得の赤字すべてが損益通算の対象になるとは限りません。土地等の取得に係る借入金利子に相当する部分など、対象外となるものもあります。
また、税負担が軽減されても、毎月の現金持ち出し自体が解消するとは限りません。税負担の軽減と、物件そのものの収益性は分けて考える必要があります。
節税効果を見る場合も、「税金がいくら減るか」だけではなく、税負担を考慮した後に手元のお金がいくら残るのかまで確認します。具体的な税額や損益通算の可否は、医師本人の所得や物件の条件によって異なるため、個別判断が必要な場合は税理士などへの確認が必要です。
5.保有中の収支だけでなくローン残債と売却価格まで確認する
毎月の持ち出しを判断するときは、保有中の収支だけでなく、将来売却する時点まで視野に入れる必要があります。
ローン残債がどのくらい減るか確認する
ローン返済が進むと、元本返済分だけ残債も減っていきます。
そのため、購入時の借入額だけではなく、5年後、10年後などのローン残債を返済予定表で確認しておくと、将来の売却を考える際の基準になります。
ただし、残債が減っていることだけをもって「資産が増えている」とは判断できません。最終的には、その時点で物件をいくらで売却できるかとの関係で決まります。
想定売却価格と残債を比べる
出口を考えるときは、まず次の関係を確認します。
想定売却価格-売却に伴う諸費用-ローン残債
これにより、ローンを返済した後にどの程度の資金が残る想定なのかを把握できます。
なお、この計算には売却時の税負担を含めていません。不動産の売却によって譲渡所得が生じる場合は、税金も別途考慮する必要があります。
これだけで投資全体の損益が分かるわけでもありません。保有期間中には毎月の持ち出しや修繕費などが発生します。購入時に投入した自己資金や購入時諸費用もあります。
したがって、投資全体を評価するなら、
- 購入時に投入した資金
- 保有中の累計キャッシュフロー
- 売却時の資金収支
を一連で見る必要があります。
将来の売却価格を正確に予測することはできません。一つの価格を確定値として置くのではなく、複数の売却価格を仮定し、結果がどの程度変わるかを確認するとよいでしょう。
現在の「月1万円」だけを見るのではなく、購入から売却までを通して、いくら資金を投入し、最終的にどの程度の資金が残る想定なのかを確認することがポイントです。
6.契約前に「月1万円」の根拠となる数字を確認しよう
不動産会社から「毎月1万円程度の持ち出しです」と説明された場合は、その数字の根拠を資料で確認します。
少なくとも、次の項目は収支シミュレーションやローン資料などで確認しておきたいところです。
- 家賃収入と、その設定根拠
- ローンの金利、返済期間、月々の返済額
- ローン返済額の元本・利息の内訳
- 管理費、修繕積立金、管理委託費などの維持費
- 固定資産税等や保険料が収支に含まれているか
- 空室をどのように想定しているか
- 将来の修繕や設備交換をどう考えているか
- 年ごとのローン残債
- 想定売却価格と、その根拠
数字が記載されているだけでは十分ではありません。「現在の家賃が続く」「この程度の空室に収まる」「一定の価格で売却できる」といった、計算の前提まで確認します。
また、不動産会社に条件を変えて再計算してもらう方法もあります。空室が発生した場合、家賃が下がった場合、金利が変化した場合などを比較すれば、どの条件までなら収支が成り立つのかが見えやすくなります。
医師専門の節税アシスタントが
あなたをマンツーマンでサポートします!!
7.まとめ|月1万円の持ち出しは金額ではなく原因と将来収支で判断する
毎月1万円の持ち出しがあるからといって、一律に「問題ない」「やめた方がよい」と判断することはできません。
赤字の中身を確認したうえで、空室・修繕・金利の変化による収支悪化、ローン残債、将来の売却まで含めて判断する必要があります。
医師の給与から毎月1万円を補填できるかどうかと、その物件が投資として合理的かどうかは別の問題です。「払えるか」ではなく、「その持ち出しを負担するだけの合理性が物件全体にあるか」という視点で収支を確認しましょう。

